ZOO1書評の続きです。
各章の感想
血液を探せ!
ギャグ路線その1です。
乙一さん本人が、「こんな作品も書けるんだぞ」と才能を見せつけようとした実験台の作品に見えました。私は嫌いでした。面白い要素が全く感じられません。これなら、最近、巷で流行っている「バカとテストと召喚獣」のほうが潔い分マシです。
内容としては、ブラックユーモアですか。痛みを感じない障害を持つ男性が目覚めると、包丁が腹に刺さっているのを発見します。専属の医者に輸血しないと助からないと宣告されますが、輸血する血液が見つからず、家中を捜し回るというものです。あまりのつまらなさに、私は途中から斜め読みしました。乙一作品の良さはこういう方面に発揮されないと、この作品を読んでそう思いました。
冷たい森の白い家
神秘的で静謐感溢れる表現が売りの作品だと思います。一応、オチもあるといえばありますが、そこが重要というわけではないようです。読み終わったあなたは、乙一さんの表現力に感嘆するでしょう。
内容ですが。「白い家」というのは死体で形作られた家で、聞くからに不気味な存在に感じますが、そこを神秘的に感じさせてしまうあたり、乙一さんの精密で慎重な表現力を感じます。
脳を使って読んでいなかったので、私はオチの意味がわかりませんでした。調べてみると、最後に登場する女性(姉弟の母親)は、主人公が元々暮らしていた家の娘ということのようです。納得ですが、別にこれといった意味はないような気もします。
Closet
正直、最後まで何が言いたかったのかわからない作品でした。ギャグ路線その1.5といったところでしょうか。オチに気づくかどうかで、印象が変わってくるのではないかと思います。オチについて説明します。
「汗だくになってクローゼットから顔を出した僕と目が合った。」この部分にオチの説明が集約されています。つまりどういうことかというと、今まで一見、三人称視点で描かれていたかのような物語ですが、実はタンスの中に潜んでいる犯人から見た一人称視点だったというわけです。読み返すと気づくかと思いますが、密室で話しているかに見える女性二人の側にはタンスがあるはずです。そこを気をつけながら、二度目を読んでみましょう。もしかしたら評価が変わるかもしれませんが、私はそこまで好きになれませんでした。
神の言葉
ZOO2の中で一番好きになった作品です。「中二病」を辞書で引くと、典型例として出てきそうな主人公です。そういうのがダメな人には受け入れられないかもしれません。コードギアスを見たことがある人は、それとほぼ同等の能力を持った主人公であると考えて良いです。要は、生物に対して絶対服従の命令を与えることが出来る能力です。
すべて計算の上で日常生活をおくる主人公が、天性の明るさを振りまく弟に嫉妬めいたものを感じるようになることから物語は始まります。やがてそのことを弟も意識するようになり、嘲笑を主人公に送り始めます。それによって主人公は追い詰められ、世界を破滅させようと企みます。
最後にオチが用意されていますが、伏線がいくつかあるので、勘の良い人なら気づくと思います。オチの説明をしましょう。つまりは、世界を破滅させたあと、自信の能力によって自分の記憶に働きかけ、「あたかも世界が存続しているかのように生活する」と思い込ませたわけです。
話の流れが突飛ではありますが、自分自身の記憶に修正をかける当たりの発想は、結構王道なストーリでしょうか。なかなか面白かったと思います。
落ちる飛行機の中で
ギャグ路線その2です。
個人的には嫌いでした。
むかし夕日の公園で
ショートショートです。驚くようなオチは用意されていません。まぁそうなの、といった感じの物語です。短いですが、乙一さんの世界観が出ている気がします。
総評
ZOO1のクオリティが全体的に高かったので期待しすぎてしまった感はありますが、それを差し引いてもレベルが低かったような? これは好みの問題なのかもしれません。乙一さんの新たな一面を見てみたい方にはおすすめできるかもしれませんが、ZOO1とは良くも悪くも毛色が違う作品なので、過度な期待はしないなどの注意が必要かもしれません。
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仮にも書評ならば、嫌いだから、という一言で評価すらしないというのはいかがなものかと。